カンセイ・ド・アシヤ文化財団カンセイ・ド・アシヤ文化財団

演奏家とアスリート

こんにちは。代表理事の山田 良です。

酷暑の毎日が続いておりますね。
どこへ行っても、どなたに会っても、

「暑いですねえ~!」

の一言がついてまわります。

最近のあまりの暑さは、色々なところに影響を及ぼしてもいるようで。

朝な夕な、犬のお散歩をされている人を見ていると、このところは、犬も
「靴」?を履いて散歩しているのをしばしば見かけるようになりました。

アスファルトがあまりに熱く、足裏の肉球が火傷するのを防ぐためのドッグ・シューズ
なんだそうです。以前、TVで、災害救助犬が、割れたガラスや瓦礫で足を怪我しないよう、
ものものしいプロテクト・シューズを履いて仕事をしているのを見かけましたが、
あれに少し似ていて。いやはや、ふつうに過ごすのが大変な季節です。

暑さ寒さに、もろに影響を受ける生身の生きものの身体。

特に、普段から身体を使ってお仕事をされている方々にとって、この暑さはどれほど
大変かと思います。運送業の方や、建設作業現場の方など、文字通り「玉のような汗」を
落としつつ働いておられる姿を見ると、心の中で労わずにはいられません。

先ごろ、ある方と久しぶりにお会いしてお話した際に、近頃、声楽のコンサートに
行ってこられたというお話を伺ったのですが、その時に

「まあ、みなさん、おきれいで、細くて、本当に華奢な体つきで、羨ましかったわ。
きっと、エステなどで磨いて、普段重い荷物なんてお持ちにならないんでしょうね」

と言われました。

たしかに、エステなどで容姿を磨かれる方はいらっしゃると思いますが、

いやいや!
それ以上に!

演奏家は、基本、アスリートと同じだと思いますよ!!

実際に自分の体を楽器として使う声楽家をはじめとして、
多岐にわたる楽器の演奏家はそれぞれ、自分の身体と楽器を併せて「一つの楽器」として
奏でている認識の方が多いのでは、と思います。
その点で、アスリート(スポーツ選手)に似ているな、と思うことが多々あります。

まず、それぞれの楽器の演奏形態と密接に関わる「職業病」としての整形外科系のトラブル。

弦楽器奏者は、基本的に身体のバランスが楽器に合せて「歪んで」しまったり、
身体の片側だけに筋肉が多く付いたりすることが多いと聞きます。
座って演奏することが多いドラマーなどは、腰痛持ちの方にしばしばお会いします。
ギタリスト、津軽三味線者など、弦を直接指や爪で押さえて演奏する弦楽器奏者で
もれなく聞くのが「爪の悩み」。割れ、欠けは日常茶飯事で、楽器ケースを
覗くと大抵入っているのが「アロンアルファ」(爪の補修や割れ予防用)。
「アロンアルファ」の画像検索結果

(ギタリスト、津軽三味線奏者の必需品。画像お借りしました)

スポーツ用のグラスファイバーの付け爪(結構、高価)をお使いの方も、時々お目にかかります。

そして、ピアニストは腕の筋肉のトラブル。意外と、指先のトラブルはあまりお聞きしません
(私の周りだけかもしれませんが)。以前、ピアノコンチェルトを2曲、一回の演奏会で
弾きこなされたピアニストにお目にかかった時、その方は、楽屋で、野球のピッチャーが使うような
スポーツ用の「氷のう」で腕を冷やしておられました。

「スポーツ用氷のう」の画像検索結果
(画像お借りました)

「腕がもうアカンわ、阪神巨人戦で、延長13回くらいまで連続で投げ続けた気分」などと
冗談を言っておられましたが、長時間の本番の後、
腕の筋肉が張ったり、痛んだり、というお話はよく聞きます。

演奏家、特にクラシック音楽の演奏家、というと、燕尾服やタキシード、イブニングドレスで
優雅に装って、華やかなステージで演奏、というイメージがあるかもしれませんが、
実際はアスリートさながらの「身体勝負」の職業なのです。

以前、ビートたけしさんが、「中村浩子のリサイタルに行ったら、演奏中の腕が、筋肉が
建設作業員の腕みたいに盛り上がっていて驚いた」という内容のコメントをされていたのを
雑誌で見ましたが、まさにそのとおりだと思います。

「中村浩子 ピアノ」の画像検索結果
(ピアニスト中村浩子さん。画像お借りしました)

そして、皆さん、ステージでのベストパフォーマンスのために、それぞれ身体のケアを
工夫されている方も多いです。

驚き、かつ面白いと思って、今でも記憶が鮮明なエピソードをいくつか。

コンクールの受賞者発表会の際に、声楽家の方がステージ袖で出を待っておられる時。

エーゲ海を思わせるロイヤルブルーのイブニングドレスに身を包み、長身痩躯の
モデル体型の美しい容姿のその方が、やおらドレスの裾をまくりあげ。

足を大きく股関節から開いて、なんと「四股踏み」!

私が見ているのに気づかれると、明るく

「歌う前に、股関節を緩ませておかないと、声が出にくいんですよ~。いつもやるんです」

同じくコンクールの、これは本選前。皆さん、ピリピリムードの中、
一人の男性参加者(ピアノ部門の方でした)が、

「すみません。ここでしばらく逆立ちしていていいですか?」

「逆立ち?!」

「はい。内臓をリラックスさせて緊張を解くのに、いつもやるんです」

出番まで、ずっと静かに逆立ちしておられました。

「ペダルを踏むのに、裸足でないと感覚がわからないから、裸足で弾いていいですか?」
というピアノ奏者は、コンクールでは意外としばしば見かけます。最近は、プロのピアニストの
リサイタルやコンサートでも、裸足で弾かれる人を見ましたので、
珍しいことではなくなってきたのかもしれません。

ということで。

クラシックの演奏家、にまつわる、エレガントで汗もかかないイメージは、実は
全く違いますよ~、本当のところはアスリートと同じ、ガチで身体勝負の職業ですよ!

というお話でした。

私自身は、終演後の楽屋で、汗でびしょびしょになった白シャツや蝶ネクタイが椅子の背にかかっていたり、
汗で崩れたメイクが付いたハンカチが無造作に化粧前(楽屋のメイク用鏡)に置かれていたり
するのを見ると、胸が妙に高鳴ります(笑)。
本気で仕事した!人の残り香を感じるようで、好きなのです。

クラシック音楽のステージの裏には、生身の人間の汗が流れている。
そんなことを思いながら、クラシックを聴いてみるのも、
また新しいひとときをもたらしてくれるかもしれません。

ザ・シンフォニーホール
(ザ・シンフォニーホール。画像お借りしました)

今日は、長々と書いてしまいました。

また、お立ち寄りくださいませ。