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Review: 2024年度第54回フランス音楽コンクールを振り返って

2024年度「第54回フランス音楽コンクール」を振り返って

例年になく暖かな日が続いた11月、「第54回フランス音楽コンクール」は第1週にピアノ部門、第3週に声楽部門が、それぞれ二日間にわたって行われた。

ピアノ部門は、予選課題曲数をこれまでの3曲から2曲に変更したこともあってか、例年よりもエントリーがやや多く、予選免除者を含めて13名が出場。大阪府泉佐野市の泉佐野市立文化会館内「エブノ泉の森ホール」(小ホール)にて、予選2曲、本選3曲(うち1曲はメシアン、デュティユー、ブーレーズ、プーランクの作品から1曲または複数曲を10分以内で組み合わせ)の演奏を競った。

本選に進んだ10名は、それぞれの強みや伸び代を感じさせる力奏だったが、特に課題曲であるドビュッシーの「花火」について、演奏者による解釈、ひいては表現の違いが際立ったのが印象的。入賞3位の脇 佑馬は、粗削りながらも随所に音楽的センスの良さを感じさせる好奏。入賞2位の北 侑梨は繊細さと端正が印象的な演奏で、中でもメシアン(「幼きイエズスへの20のまなざし」より「聖母の初聖体拝領」)は独特のまろやかさと奥ゆきがあった。入賞1位の清原 一龍は、どの曲もバランスのとれた演奏で、特にフォーレの「ノクターン」4番は「うたごころ」を感じさせるたっぷりとしたフレージング。メシアン(「前奏曲集」より「風の中の反映」)はシャープな中に潤いのある音色で、今後の活躍発展に大いに期待したい。審査員特別賞の戸田 優佳は、特にプーランク(「三つのノヴァレッテ」)が出色で、3曲それぞれにメリハリがあり、パリの街に漂う都会のメランコリーと洒脱の雰囲気が感じられた。入選者の中で特に印象に残ったのは、柴田 百慧。フランス音楽に馴染む、煙ったような美音と共に、曲による音色の切替も明確であり、全体的に音に膨らみと奥行きをもたせる工夫の跡が感じられた。今後が期待される。

声楽部門は、予選免除者を含めて19名が参加。一昨年、昨年に引き続き、大阪市内の瀟酒な音楽サロン「ラ・カンパネラ」にて。予選は8分以内で2曲(その1曲はGounod、Fauré、Hahnの歌曲のうち1曲)、本選は15分以内で曲数自由(二人またはそれ以上の作曲家から選ぶ)という条件のもと、フランス歌曲に特化して用意したプログラムで、研鑽の成果を競った。

本選に進んだ13名中、入賞3位の熊谷 美奈子は、プーランクの「戯れの婚約」とドビュッシーの「忘れられた小唄」を組み合わせたプログラムで、都会の洗練と、歌詞の「言葉」が生み出すイメージと音楽が融合して生まれる歌の世界を、バランスのとれた歌唱で表現しようと試みたところが印象的。入賞2位の武藤 あゆみは、メシアン(「ミのための詩」)が出色。予選でフォーレとデュパルクを歌った時とは趣をがらりと変えて、メシアン独特のリズムを際立たせながら、日本国内では未だ決して知名度が高いとはいえないメシアン歌曲作品の好奏を聴かせた。入賞1位の新山 和奏は、昨年度の初出場から二度目の参加で見事最高位を得たが、一年の間に積み重ねた努力と研鑽の賜物といえるだろう。本人の声質と雰囲気に合った選曲(ラヴェル「天国の美しい三羽の鳥」、フォーレ「祈りを込めて」など)も功を奏した印象。審査員特別賞の井上華那は、プーランクとドビュッシー、それぞれの違いを丁寧に歌い分けた。

ピアノ部門、声楽部門ともに、当コンクールは、「リピーター」の参加が少なくない。この点は、入賞など成績獲得を狙う参加者が多いコンクールと一線を画すところである(どちらが良い悪い、という話ではない)。フランス音楽の魅力の普及を趣旨として始まった当コンクールだが、半世紀を経てなお、日本国内におけるフランス音楽の知名度は高いとはいえない状況にある。その中で、フランス音楽と真摯に向き合う演奏者たちにとって、当コンクールが貴重な情報交換と交流の場であると同時に、各自の研鑽をはかるバロメーター的な役割を果たしてきたことは確かである。今後もそうした場であり続けるために、関係者各位の理解と協力に深く感謝しつつ、主催者としてできるかぎり努めていきたい。

(文責:山田 良―一般財団法人カンセイ・ド・アシヤ文化財団 代表理事)

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