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Review: 2023年度第53回フランス音楽コンクールを振り返って

〈Review: 2023年度第53回フランス音楽コンクールを振り返って〉

 

53回目の「フランス音楽コンクール」は、運営面で二つの大きな「更新」があった。

 

一つは、ピアノ部門と声楽部門を、それぞれ完全独立日程での分散開催。もう一つは、ピアノ部門の会場として、400席超の音楽専用ホールの使用である。

 

コンクール主催を、設立以来の「日仏音楽協会=関西」から「カンセイ・ド・アシヤ文化財団」(以下当財団)が引き継いで以降、両部門、特に声楽部門の参加者数の増加に伴い、各部門の独立日程開催は喫緊の案件であった。会場の確保をはじめ、未だ検討を要する事項も少なくない中ではあるが、今回、ひとまず各部門独立日程での開催に踏み切ったことで、今後の当コンクールの運営面とクオリティ面両方での向上が見込めた点は、有意義であったと思う。

 

また、ピアノ部門の会場として、本格的な音楽専用ホール(泉佐野市立文化会館「エブノ泉の森ホール」小ホール)を使用したことは、参加者、審査員を含む関係者の双方から大いに好評を得た。コンクール会場としてのホール使用については、一般財団法人泉佐野市文化振興財団の理解と協力に依るところ大きく、この場を借りて改めて感謝申し上げると共に、今年度も同ホールをピアノ部門会場として使わせていただけることに御礼を申し上げる次第である。

 

ピアノ部門(2023年11月4日予選・5日本選)では、例年に増して社会人ピアニスト(本業をもちつつ演奏・研究活動をしている)の躍進が目立った。特に入賞第一位および両部門総合一位に選ばれた谷川俊介の演奏はすばらしく、本選でのメシアン(「幼子イエスに注ぐ20の眼差し」から「聖母の初聖体」)は審査員席から満場一致での高い評価を得た。入賞第二位の松本優里は予選から大いに健闘を見せ、本選でのデュティユー(「 ピアノ・ソナタ 第3楽章〈コラールと変奏〉」)は、多彩な音色表現が求められる大曲を理知の勝った清新な演奏で弾ききった。入賞第三位の伏屋咲希もメリハリの効いた美音が印象的な好演で、本選のプーランク(「主題と変奏 変イ長調」 FP.151)は曲間に有機的な繋がりを感じさせて、音楽の小宇宙を創出した。

 

声楽部門(2023年11月11日予選・12日本選)では、上位成績者の接戦が目立ち、得点が拮抗する場面多く、最終的に入賞第一位は該当者無し、入賞第二位と第三位がそれぞれ二名という結果となった。当コンクールの声楽部門の課題曲は、予選、本選とも出場者に選曲が任せられる度合いが高く、特に本選は合計演奏時間を15分以内に収めて曲数は自由、という、「小さなリサイタル」と言っても過言ではない構成を求められる。フランス歌曲を歌うための歌唱の技量はいうまでもないが、フランスの文化、芸術、歴史、思想など、フランス歌曲にまつわる諸々への造詣、そして優れたステージを創る美的センスも問われる、音楽コンクールとしてはなかなかに「手強い」内容だと思われる。


入賞第二位を分け合った村山舞と中村里咲は、ほどよく艶(つや)の勝(まさ)った芳醇な歌声の村山、清楚な印象の中にも安定感のある声の中村と、それぞれ異なる個性の魅力を発揮。中村はラヴェルの「五つのギリシャ民謡」の「婚礼の歌」から始めて、趣の違うプーランク2曲(「ギターに寄せる」と「田舎の歌」)の後にドビュッシー2曲(「ロマンス」「アリエルのロマンス」)を歌い、瑞々しい叙情の余韻で締め括った。村山はレイナルド・アーン「灰色の歌」から4曲(「やさしき歌」が特に出色と感じられた)を余裕ある息遣いで丁寧にまとめ、最後にドビュッシー「出現(Apparition)」で自身の声の強みを印象づけるプログラム構成。入賞第三位の須永龍生は、柔らかなテノールを生かして趣の違う3曲(フォーレ「九月の森で」アーン「私が虜になった時」アーン「クロリスに」)で構成、特に「クロリスに」では、ロマンティックな世界を品よく歌いあげた。同じく入賞第三位の森本桜はショーソン2曲(「イタリア風のセレナーデ」「ハチドリ(蜂雀)」)とカプレ2曲(「古びた化粧小箱」から”Songe”と”Foret”)、少しアンニュイを感じさせる声に合ったプログラム構成で丁寧にまとめた。


声楽部門については、会場側のひとかたならぬ理解と協力について、是非触れておきたい。一昨年来、声楽部門の会場としてお借りしている音楽サロン「ラ・カンパネラ」では、オーナーである勝野氏はじめ、当コンクールに対して本当に深い理解と協力を示していただき、主催者としては本当に感謝してもしきれない。今年度も声楽部門会場として使わせていただけることに、心から御礼を申し上げる次第である。

 

1970年代はじめに、「フランス音楽を日本国内に広めたい」という思いを同じくする日仏の演奏家、外交官、音楽愛好者たちによって「日仏音楽協会=関西」が立ち上げられ、「フランス音楽コンクール」が始まって半世紀。フランス音楽に特化したコンクールとしては国内唯一として現在に至る。社会情勢から財団の台所事情に至るまで、このコンクールにふりかかる「荒波」は次から次へとやってくるが、「才能と研鑽を以って芸術の神をもてなし言祝ぐ、厳正かつ清新な競いの場」としてのコンクールの在り方を守りながら、今後も運営を続けていく所存である。

(カンセイ・ド・アシヤ文化財団 代表理事 山田 良)

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