カンセイ・ド・アシヤ文化財団カンセイ・ド・アシヤ文化財団

クルマと私

こんにちは。代表理事の山田です。

前回から、また少し間が空いてしまいました(汗)。気を取り直して、参ります!(笑)

さて。今日のテーマは「クルマ」、自動車です。

演奏家の中には、洋楽邦楽問わず、お車がお好き、あるいは運転が上手い、という方が多いように思います。

私が不肖の末席弟子としてお世話になっている(末席過ぎて、弟子と書かせていただいていいのか、迷いますが)三味線のお師匠様は、以前から四輪駆動をはじめ、お仕事に様々なお車を駆使されています。邦楽器の場合は特に、楽器本体はもちろんのこと(スペアの楽器も含め)、衣装など荷物が多くなりがちで、クルマでの移動が楽で便利、とのこと。

2月10日に世良美術館でソロ・リサイタルをなさる「スギテツ」のヴァイオリニスト、岡田鉄平さんなどは、愛車はメルセデス・ベンツ、CDのデザインには、至る所にクルマの意匠がちりばめられ、なんとご自身でレストアまで手がけられる、という、もう筋金入りのカーマニア。

こういう方々を拝見しておりますと、私のように、クルマとは本当に無縁!な人間は、己の非才と無力を見せつけられるかのようで、思わず!たじろいでしまいます・・・クルマと聞くだけで「怖い」「運転は絶対ムリ」となる私。しかし・・・実は、運転免許は持っております(もちろん普通免許だけです!)。十年ほど前、結婚を機に一念発起して、よりにもよって交通量も運転も激しい大阪・弁天町界隈の教習所に通い。なんとか免許は獲得したのですが、とにかく「実際に運転するのが怖い」のです。前世で交通事故を何度も体験しているのでは、と思うくらい、クルマ=鋼鉄の塊=圧倒的な物理的パワーそのもの、に感じられて、以来、完全なペーパードライバー・ロードを進行中です。

そんな私が、一度だけ、本当に必要にかられて、運転をしたことがあります。

それは、母と近くのスーパーマーケットまで買い物に出かけた時のこと。

昭和9年生まれの母は、1950年代に留学先のパリで運転免許を取り、亡くなるまで現役で免許証を持ち続けました。最初の愛車は真っ赤なパブリカで、最後の愛車はオリエンタルレッドのファミリア、という、意外に堅実な国産車ユーザーでした。「クルマを運転すること」は、晩年の本人にとって、人生の愉しみの一つであると同時に、自立した人間としてのプライドの在処でもあったようです。

忘れもしない、母が八十歳の夏のある日。週末にまとめて買い出しに出かけるのが習慣だったので、その日もいつもと同じように彼女の愛車で一緒に出かけました。母の運転の技術はしっかりしていましたが、さすがに八十ともなると、万が一、何かあったら本人一人では対処できない可能性が高い、ということで、毎週のクルマでの買い出しには同乗していたのです。

「万が一」が、本当に起きてしまいました。

運転開始早々、母が、脳梗塞を起こしたのです。ろれつがだんだんおかしくなり、ハンドルさばきも鈍くなり、クルマは蛇行し始めました。

「ちょっと、ちょっと、おかしいよ、大丈夫?!」「んー、だいじょうぶ-」

全然大丈夫ではありません。とっさにハンドルを横から掴んでクルマを路肩に寄せ、訝る母を降ろして助手席に乗り換えてもらい、運転席に座りました。

果たして、ここから、家まで無事運転して帰れるのか?!

今、このクルマを運転できる人間は、ここには私しかいない。

必死の思いで、助手席でぼーっとしている母にシートベルトを付けさせ、私は運転席でハンドルを握りました。そこからは、もう、覚えていません。ただ、ただ、教習所で習った手順を思い出し、四方八方に神経を張り詰めさせながら、家までの約2キロの道のりを運転しました。休日の午前中ということで、走行車の数が少なかったことが、不幸中の幸いだったかもしれません。クルマを車庫に入れて、エンジンを切ろうとしたのですが、ハンドルを握りしめた両手が真っ白になっていて、冷や汗がしたたり落ちており、やっとの思いで指を一本ずつ、ハンドルから引き剥がすようにして離したことは覚えています(ちなみに、母の脳梗塞は、この時は軽く、すぐに治まりました)。

これが、後にも先にも、私が完全に独力でクルマを運転した唯一の経験です(事故にならなくて本当によかったと、今でも思い出すと冷や汗が吹き出します)。

当財団が拠点を置く兵庫県芦屋市は、全国でも指折りの外車ユーザー多数地域のようです。ベンツはもとより、BMW、ボルボ、プジョー、アルファロメオ、中にはフェラーリやランボルギーニまで、街を歩いていると、至る所で格好いいクルマを沢山見かけます。かつて運転免許を取った時、「あんたが運転するクルマで、大阪と芦屋、往復しようかな。真っ赤なプジョーなんか、ええなあ」と言っていた母の言葉を思い出し、結局叶えられなかったことを思うと、心のどこかで、ちょっと申し訳ない気持ちになります。

赤いプジョー(画像お借りしました)

また、お立ち寄りくださいませ。