−−フランス音楽コンクールと野々下先生、ご自身の出会いについてお聞かせください。
はい。 私は大学院の修士1年生の時、1985年になりますが、その時にこのコンクールを受けて1位をいただきました。 40年ほど前になりますかね・・・ 多分。だから、第15回とかそのあたりだと思います。人生で初めて1位というものをいただいて、自分が人生をかけていける分野というのは、これなんじゃないかなというふうに、確信を持った瞬間になりました。努力を重ねていく源になって、そしてフランス語の歌を極めるという、自分の人生そのものの中核になりました。
−−他のコンクールとフランス音楽、コンクールの違い、特徴、魅力といったものについてお聞かせください。
フランスのお国柄をまとったコンクール、ということですよね。名前の通りですけれども、やはりフランスらしさに魅了されて、それを表現し、分かち合い、そしてまた高めたいという、そういう人たちが集まる場所だなというふうに思っています。声楽を始めるときには、迫力のある声になりたいとか、音域をとにかく広げたいとか、大きな声を獲得して、人を魅了したいという、そういうふうに望みがちですけれども、フランス音楽の中には決して大きいだけではない、音の中に多様な表現を追求していく面白さがあると思っています。多分、ここに集まる人たちは、そういったフランス音楽の特徴というか、一言で言えるものではありませんけれども、節度とか均整とか、それから繊細で、ちょっと優雅さがあって洗練されているという、そんな良いセンスも演奏の中に必要なんじゃないかなというふうに思っています。聴覚だけではない、五感をくすぐるような、そんな演奏を聴きたいんだなというふうに思っています。
−−日本におけるフランス音楽の需要、受け止めの変化について、先生のお感じになるところをお聞かせください。
私も古今のフランスの歌曲を歌ってきまして、よく聴衆の方から言われるんですけれども、「実際に演奏を聴くと、フランス歌曲って素敵なんですね」って言われるんですね。でもあまり聴く機会がないのと、ちょっとなにか「壁」があるかなっていうお話を聞きます。やっぱりこう、フランスらしさって何なのかなって思うと、そのフランスらしさの表現が直接的ではない、まあ一言で言ってはいけませんけれども、そこに理由があるんじゃないかなというふうに思います。けれども、多面的で、そしてしっとりとしていて、そしてある種の良い余韻がある、そういう世界が好きな方達に大いに受け入れられているんじゃないかな、というふうに思っています。フランス文学とか、フランス映画を愛する人たち、そういう方たちにフランス歌曲の魅力も共有してくださると嬉しいなぁなんて思ってるんですけれども。フランスの文化に共通した、素晴らしいところっていうのを、みんなで広げていけるといいなと思います。
−−少し質問が重なりますが、コンクールが始まった55年前から約半世紀が経った中で、フランス音楽の日本における知名度や、演奏家のレベル、演奏する人の人数、そして聴衆側の需要・受け止めについて、どのように変化があった、あるいはなかった、そのような点について、先生のお感じになるところをお聞かせください。
知名度としては、やっぱりインターネットの普及で、ずいぶん上がっているんじゃないかと思います。フランス音楽全体に対する意識がですね。そして演奏家のレベルとか人数に関してですけれども、やはり情報が多くなった分、演奏のレベルはずいぶん上がりましたし、それから技術的にもかなり高まってきたので、それはもうこの半世紀ぐらい、どんどん高まってきたことだと思っています。ただ、やはりオンラインの世界でのこともあるから、少々表面的なのかなってちょっと感じることもあります。今、素晴らしい人材も育ってきていますけれども、本国のフランスで通用する日本人の演奏家の数っていうのは、どれくらいなのかな、すごく増えているとは言えないんじゃないかなと思っています。そして、このコンクールでこそ、教育者としても後世にフランス歌曲の魅力を伝えていく人材というのが育っていけるんじゃないか。このコンクールじゃないと、なかなかその道が開かれないんじゃないかな、っていうふうには感じています。聴衆側の需要としましては、やはりコンピューターとかスマホの中で展開しているかなぁっていう印象もあります。かなり厳しい言い方ですけれども。やはりその枠を超えて、こう空気を震わせながら、聴衆に直接言葉とか音楽を届けるっていう、その場所で音楽を享受することっていうのが、やはり学ぶ側にしても、それをずっと伝えていく側にしても、演奏者としても、何より大切だと思っています。
−−では最後の質問です。審査員として、このフランス音楽コンクールに長く携わってきてくださった野々下先生の観点から、このコンクールへ一言いただけましたら幸いです。
私が審査員を拝命したのは、お母様の意志を継いで、山田良さんが新しい時代のフランス音楽コンクールに変化させようとしている、2018年のことだったと思っています。その後2020年にコロナが蔓延しまして、大変な困難の中、当コンクールの継続実施に踏み切った山田さんには、本当に心から敬意を表したいと思います。 そして、そのことは当コンクールの転機になったというふうに思っています。ほぼすべてのコンサートやコンクールが中止に追い込まれる中、表現を極めたい演奏家の卵たちが関東からもたくさん集結して、演奏を披露してくれたことで、出場者のレベルが高められ、またコンクールの周知、そして聴衆の耳を育てることにもつながったのではないか、というふうにも思っています。
−−ありがとうございました。
聞き手:山田 良(一般財団法人カンセイ・ド・アシヤ文化財団 代表理事)
1970年に始まった「フランス音楽コンクール」は、2025年に創設55周年を迎えました。
この節目の年を記念し、そしてこれからもフランス音楽の魅力を広く伝えていくために、
ガラ・コンサート開催に向けたクラウドファンディングを行います。
フランス音楽に親しんでこられた方も、これから触れてみたい方も、
楽しんでいただけるような素敵なリワードをたくさんご用意いたしました。
クラウドファンディングの詳細は下記リンクよりご覧いただけます。
ぜひ一度ご覧のうえ、ご検討くださいますようお願い申し上げます。